この作品は、女性主人公一人称である「私」の、私を捨てた「あなた」に向けてのひとり語りで形成されている。
読み始めてじきに、ジェームス・ジョイスの『ユリシーズ』の最終章である「ぺネロペイア」を思い出してしまった。
『ユリシーズ』の主人公のひとりであるブルームの妻モーリーの、あの句読点が異様に少ない一人称独白体である。
その「ぺネロペイア」の書き出しを、引用する。
Yesだって先にはぜったいしなかったことよ朝の食じを卵を2つつけてベッドの中で食べたいと言うなんてシティアームズホテルを引きはらってからはずうっとあのころあの人は亭しゅ関ぱくでいつも病人みたいな声をだして病きで引きこもっているみたいなふりをしていっしょけんめいあのしわくちゃなミセスリオーダンの気を引こうとして自ぶんではずいぶん取り入っているつもりだったのにあのばばあと来たらみんな自ぶんと自ぶんのたましいのめいふくを祈るミサのため寄ふしてあたしたちにはなんにも残さないなんてあんなひどいけちんぼあるかしら
以後まだこの調子で文庫本で110頁くらい蜿蜒と続くので(!)、このあたりで止めておきます。
句読点は無いわ、漢字と仮名が混じっているわで、当初はまごついて読めませんが、慣れるとおいしいクサヤの干物(意味不明なフレーズで済みません)、やがてはモーリーの孤独な日常世界と精神世界の全体像が浮かんでくるのです。
ジョイスはやはり天才であるし、ヴァージニア・ウルフにその地を這うような卑小な人間描写が嫌われた理由ものみ込めるというもの。
などとあらためて思い出しながら、惜しい、ジョイスそのままという訳には行かないが、水木さんも句読点を無くして改行もせずに「私の言葉」だけを紡ぐことに専心したらと痛切に思った。
小説としての体裁を慮るあまりお行儀がまだ良すぎるのです。
リアリズムの作法などかなぐり捨てて「私」の内面に徹底的に入ってしまえばよかったのではないでしょうか。
「私」がもっともっとお行儀悪く、「あなた」への恨みつらみ嫌味を言うのに特化して、「私」がモーリーみたいに蜿蜒しゃべり続けたら、すごい小説になっただろうな、というのが単純率直な感想です。
ただ、水木さんが2号、3号と、同じような作品を再生産することを潔しとせず、手を変え品を変えて書き続けておられる姿勢には、大いに共感、感動し、次号を待ち望むものであります。
でもこれだけ異なった小説を書ける水木さんって器用=貧乏に陥る可能性が無きにしも非ず、かも知れません。
自分が本当に書きたいのはどんな小説だったのか、翻ってみたらいい小説が書けるのかも知れません。
感想、ありがとうございます!!!
返信削除ああ〜〜〜そうなんだ....。「鳴らない電話」を改行がほとんどなく、読みづらいと指摘されても、私はまだまだ、いい足りない恨みツラミを言いたかったのですが、句読点なしに螺旋で行くと、良かったのでしょうか..。今、気付かされました。ありがとうございました。「器用貧乏」にはなりたくない(-"-;)しかし、未だに掴めないのです。自分が...。いえ〜わかってるのですが、私の一番好きな文体は古くさいと言われます。だから悩みます...。照葉樹で手探りしている部分がありますね..。
感想ありがとうございました。ブログや文芸同人案内をいつもみています。euripidesさんの新たな分野がどう開けていくのか、うきうきしてはのぞいております。私も良い作品が書けたらpick upしてもらえるのかな〜なんて夢をおっています。
また、こつこつと書くことに致します。本当にありがとうございました。
おお~っ! なんとも大胆かつ面白い提案をされる!!! 瞠目の評論ですね。これを言うのは、勇気のいることです。大胆さと繊細さを併せ持ってこそ小説ですよねぇ。繊細な感覚を大胆に書く。…自分に言ってます。ただし、わかり易さと豪胆さのバランスは、これまた非常に難しい。わからない、読みづらいと言われることを覚悟のうえで、力でねじ伏せる。ryoさんの物語構想力をもってすれば、それも可能かもしれないですね。なんか、上を踏まえて次に臨まれるryoさんが凄い楽しみ。
返信削除わわわ〜! Lydwineさん楽しみなんて言わないで....。 私は墓穴を掘っているかも....。4号どうしよう〜〜。
返信削除