2009年6月28日日曜日

パートタイム(納富泰子「胡壷・KOKO」第8号)

 古美術商とはいうもののどこにも古美術品はなく、事務所もただの古いマンションの一室に過ぎないらしい、限りなく怪しい会社にパートタイムで勤め始めた私の視点で描かれているが、この会社や社長の胡散臭さがじつにうまく書かれている。こういう怪しく胡散臭い会社が実はたくさんあるのである。
 また、向かいのアパートの認知症と思しき老夫婦のやりとりと「オムツ替えてくださぁい」のリフレインが実にインパクトがあります。
 実は、私自身もこれに似た老夫婦を見知っていて、先に寝込んだおばあさんが「父ちゃ~ん、父ちゃ~ん」と叫んでいたのを仕事をしながら耳にしているし、その父ちゃんも妻が亡くなった後は二階の窓から顔を出し、通行人の誰彼なく呼び止めては「援けて下さい。うちの者がご飯を食べさせてくれないんです。おなかが空いて死にそうです。援けて下さい」と訴えていた。だから、「オムツ替えてくださぁい」が実にリアルに感じられてならない。
 人間という存在はどう贔屓目に見ても完璧な存在ではありえず、いわばバロック(歪んだ真珠)のようなものだと思えば納得がゆく。そういう視点に立ってみれば、この「パートタイム」という小説はまさに怪しく歪んで胡散臭い人間たちを、見事に描写していると言える。
 そして一年半後にそのマンションとアパートのある一角を通りかかると、まるですべてがうたかたであるかのようにマンションもアパートも取り壊されて、無い。無いけれど、怪しい会社も社長もスミオも、向かいのアパートの認知症のおばあさんもその夫も確かに存在したのである。
 何ともみごとに人間社会のバロックを描出した小説ではあります。
 

2 件のコメント:

  1. ご感想を戴きまして有り難うございます。人間も人間社会もバロックのような存在だということ、本当に納得です。「胡散臭い会社」は、突き放してみると、妙に人間臭く可笑しいものがありますね。
    「おむつ替えてくださ~い」は、明日は我が身かも、という不安をそそりますよね。老人施設で働く友が言っていましたが、老いていくほど誰もが排泄が問題、だそうです。男も女も変わりなく。
    プライドの高い老人は、おむつをされたとたんに無口になって弱ることもあるとか。男性用の三角形のおむつを倉庫から盗み出してベッドの下にいっぱい蓄えてるお爺さんもいて、排泄の不安を強く持っているんだな~、と胸が痛みました。お爺さんも、お婆さんも、この世の最後を健気に闘ってますね。
    励ましてくださって、また書く元気が出ました。有り難うございます。

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  2. 勝手で雑駁な読み方で申し訳ありません。もう少し、Lydwine.さんを見習ってきちんと読まなくてはと思うのですが、根が大雑把なものですからどうも……。
     寝たきりの老人の声って、脳裏に焼きついてしまいますよね。私も「父ちゃ~ん」という声が忘れられないで困ります。

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