2006年12月28日木曜日

低気圧一過、蒼空のルシフェル

 市立図書館が月、火と休館で、年内は27,28日しか開館日がない。仕方なく、アリバイ工作をしてから日中堂々、市立図書館の本館とA分館をはしごです。
 本館でフォークナー全集11『標識塔』、を借り、ついでに確認したいことがあるので『ロルカ全詩集Ⅰ・Ⅱ』(小海永二訳、青土社・昭和54年刊、どちらも4,800円)、それから行き当たりばったりレオン・ブロアの『絶望者』を借りる。『絶望者』については作者の名は耳にも目にもしているものの一作も読んだことがなく、どんな小説だろうと開いたら次のような書き出しだった。
 この手紙がきみの手元へ着く時分には、ぼくはもう父を殺してしまっているだろう。あの哀れな男は断末魔の苦しみにあえいでいる。夜明けまでもつまいということだ。
 このたった二行で借りる判断を下した。
 それからA分館へ行き、誰もいなくて閑散としていて、しかも自分で棚を探すのが面倒なのでカウンターに直行し、書名をレーモン・クノーの『文体練習』と告げてパソコンでどの棚にあるか検索して貰った。すると棚まで走って持ってきてくれた。返却は本館でもいいとのことで、それはまとめて返せるので助かります。しかし、こんなに返却日の1月18日までに読めるかどうか。物差しで計ったら5冊で高さ15㎝あります。
 あ、でもロルカ全詩集は目的が違う。
 今、ちょっと見てみよう。あ、ありました。の「詩の本」(これはガルシア・ロルカの第一詩集です)に「海」があります。
 ガルシア・ロルカの詩「海」について、これまではあちこちに何回も書き散らしていますので、私の日記やブログをずっと見ている方は「またか」とお思いでしょうが(そんなにたくさんはいないはず)、そういう方も、衝撃的新情報がありますのでスルーしないで下さい。
 私がロルカの「海」という詩を知ったのは、種村季弘さんが翻訳されたグスタフ・ルネ・ホッケ著『文学におけるマニエリスムⅠ・Ⅱ』(1971年、現代思潮社刊、Ⅰ・Ⅱとも1,000円)のに、付録として「ヨーロッパの綺想体 ミニアチュア-アンソロジー」というマニエリスムな詩のアンソロジーに収録されていたからでした。ガルシア・ロルカの詩にはここから入ったのです。
 では先ずは種村季弘訳(訳者が別にいる場合は表記してありますが、ないので種村さんご自身の訳と思われます)
  
海は
蒼空のルシフェル。
光たらんとして、
堕ちた天空



 たった四行ですが素晴らしい表現です。
 さらに今、『ロルカ全詩集』の「海」を開いてみましたが、驚きました。
 種村訳は冒頭だけの抄訳だったのです。知らなかった……ショックです(-_-;)
 全詩集をみると続きがあって、もう少し長い詩なのでした。全文引用します。



海は
青色の魔王(ルシフェール)。
光でありたいために
落ちた空。

 前には 大空の中で
やすらかな時を過ごしたことがありながら、
永久運動の刑を受けた
哀れな海よ!

 けれども愛は お前を
お前の苦さから救い出してくれた。
お前は純潔なヴィーナスを産み、
お前の 苦しみを持たぬ処女なる深さは
そのまま残った。

 お前の悲しみは美しい、
光栄ある痙攣を重ねる海よ。
けれども今ではお前は 星たちの代りに
緑色をおびた蛸どもを持っている

 お前の苦しみを耐え忍べ、
恐るべき悪魔(サタン)よ。
キリストはお前の上を歩いて渡った、
だが牧羊神(パン)も同じことをした。

 星のヴィーナス 金星は
世界の調和だ。
伝道の書は沈黙せよ!
金星は 魂の
奥底だ……

 ……そして みじめな人間は
落ちた天使だ。
大地は多分
失われた楽園なのだ。      (1919年4月)
               
     『ロルカ全詩集Ⅰ』のなかの「詩の本」小海永二訳より引用

 はあ(ため息)
 種村さん、これを抄訳でなくて最後まで訳してくれていたらね、と思わず天を仰いでしまいました。
 (因みにガルシア・ロルカはスペイン内乱のさなか、1936年8月18日にファシスト、ファランヘ党員に捉えられ、翌19日朝、自身の墓穴を掘らされた後で銃殺されました。38歳。)
 
 気を取り直してクノーの『文体練習』を開いて見ました。面白そうです。午後はデスクワークがあるので、少しはのぞけるかもしれない。
 『文体練習』といえば、「散文ブログちりぶみ」にアップされている「大塚晩霜氏の文体練習」がネット上の友人たちに好評ですので、右サイドバーのBookmarkにリンクを張りました。相当あちこちで笑えますので、よろしかったらどうぞ。


後書き:
 夕食後にレーモン・クノーの『文体練習を』ちょっとのぞいたら、おもしろくてもう99のうち30まで読んでしまいました。翻訳でも笑えますし、やはり99通りの書き方が出来るというのは大変なことです。普通はこれだけの数の視点に気がつきません。

Wha! やった。
レーモン・クノー「きびしい冬」の翻訳があることを発見!! S社の世界文学全集に収録されていたとは……。単行本でないから通常の古書検索では絶対にヒットしない。ううむ、もっと強力なキーワード・フィルターはないものか……。
 図書館の蔵書検索をしたらあるようだが、安かったら買おうと古書検索したらほとんどが4~5,000円。勉強している古書店は価格設定が高い(というか、絶版品切れは思い切り高くする)。
 (クノーも『地下鉄のザジ』以外は高い。『青い花』なんて20,000円だった。)
 ただししつこく検索しているうちに900円と1,000円が見つかったので900円の古書店へオーダー・メール。ただし年末年始休業に入るだろうから、年が明けて開店してから送っていただければ結構と書き添えておいた。いずれにしても、今ある本だけでも読みきれるかどうか判らないのだから。
  『きびしい冬』は言葉遊びの達人クノーおじさんにしてはまじめに暗い小説なのだそうですが、さて、ヴィアン推奨のほどはいかほどか、楽しみです。
 そういえばヴィアンとクノーはどちらもパタフィジク協会の重要メンバーでした。
 以前もアップしましたが、二人の写真、再度アップします。
パタフィジックの大太鼓腹勲章(胸に飾られた渦巻き型ペロペロ・キャンディみたいなの)を胸に嬉しそうに語り合う、左ボリス・ヴィアン、右レーモン・クノー。ヴィアンは渦巻き勲章を二個つけています。偉いんです。
VIAN%2520Queneau.jpg
記録:本日、初コメントスパム、早速削除。どこからと思ってドメインから国を調べたらエストニアからだった。

4 件のコメント:

  1. 「ちりぶみ」の「文体練習」を千葉の男性に、クリスマスプレゼントよ、といって教えましたところ、彼はある研究所の仕事の合間に、うっかり覗いてしまい、読むのをやめられなくなったではないか、と困っておりました。「この作者は島根県人に違いない」と、自身も島根県出身である非常に口が悪い間寛平そっくりの憎めない彼と、人の好い福岡県人の私とは、意見が一致しております。(何となく「ちりぶみ」調になってしまった。)

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  2. やはり島根県人ですか? ひとりも知り合いがいないのでまったく解りません。
    昨日図書館から借りてきたレーモン・クノーの『文体練習』、もう読んでしまいました。この翻訳はタイヘンだっただろうと思います。買って手元に置きたいんですが、厚さの割りに高いんですよね。

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  3. ありがとうございマスクのBookmark。威麻殺気、屠烙駁弐飢餓月魔舌。嬉しいとてものココロある。巨凵尺工尸工刀巨丂 丂凵从从巨尺、匚口尺几 乃凵尺几 幺廾丹丁(euripides様、今晩は)。大塚晩霜に御座候。感謝の意を表するために張りきってコメントさせていただくざます。
     不肖、実は文学にそれほど通じておらず、書く文章は「散文」といわんよりもまさしく「散り文」でありまして、その価値はちりがみ相当であります。ぇ→`⊂ぉ、それナょσレニ→、こωナょレニ評価Uτレヽナニナニ〃レヽτ→、`⊂ッτもぅれUレヽりゅω☆
     プロではあらへんから、気楽な気持ちで執筆しましたんや。らっぷトクァ、浪花節トクァワァ、ハナウタウォ、クチズサミナグァラァネ…ダケード!とても目次には檸檬苦悩、宇の訓漏れは二次苦も持てと。[んー、苦悩とクノーが掛かっていて、うまいと思わんかね、チミ。]脳みそがキャラメル色の花火の音ドカーン爆ぜるかと小鳥的に思うほどの苦労をしまししまししま苦労しまし苦労しま苦苦苦しまし苦労しました。
     どうしようもない、ハァ・ハァ、無駄な企画では、ハァ・ハァ、ごわしたが、ハァ、こうして、ハヒー、好評を、ハァ、戴けたのは、オエップ、望外の喜びで、ハァ、ございま、ハァ、ごっつぁんです。うんこ作品やも知らねど、他ならぬ作者の余も、讀み返して獨り微笑む事、頻りなるはいとをかしと言ふべし。
     Kurou ga Mukuwarete Shiawase desu。月並みではございますが、今後とも何とぞご指導ご鞭撻のほど、深くお願い申し上げる次第でございます。
    【使用した文体】大奮発!
    俳句・暴走族・中国人・英漢字・候文・マダム
    兵語調・ブリッコ
    関西弁・西洋人・回文・[管理職]・サイケ
    相撲取り・擬古文
    ローマ字・講演
    ��あいうえお作文+折り句>

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  4. 晩霜様、ありがとうございます。
    黙って勝手にBookmarkしてもすぐにバレてしまいますね。
    おかげさまで、私も後先逆ですがめでたく本家クノーの「文体練習」も読ませていただきました。どちらも腹を抱えて大笑いでき、一粒で二度美味しい「文体練習」となりました。
    ところで、つかぬことをお伺いいたしますが、晩霜様は島根県出身でございましょうか? 

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