2006年12月24日日曜日

視点の推移

 昨夜、まだちょっと眠れない感じだったので就寝前のわずかな時間に、ピエール・マッコルランの「冗談に」と「仕返し」の二編と、ガストン・ド・パヴロウスキーの「怪物」と「黒色光線」の二編を読んだ。『フランス・ユーモア文学傑作選 笑いの錬金術』(白水Uブックス)に収録されている。
 二編ずつ読んだだけでは、ボリス・ヴィアンが惚れこんだ感じがよくは分りませんが、でもまあどのような魅力か少しは見当がつきました。

 『秘儀と習俗』は「作家と表現」と「作家と地域」を読み終え、次の「小説の本質と目的」へ。
 読み進めているうちに、河野多恵子さんが文學界に連載して本になった『小説の秘密をめぐる十二章』 とか、Rさんに教えられたレオン・サーメリアンの『小説の技法―視点・物語・文体』を読んだときのことを思い出した。レオン・サーメリアンについては多くを知らないが、少なくともこの本を読んだ限りではギリシア悲劇以降の創作の技法をよく把握していて、読むのが楽しかった。
 物書きのなかには技術とか技法を語ると露骨に嫌がるひとが必ずいるが、天然で傑作が書けるほどの天才でない限り、どうやって書くかを考えないわけにはいかない。
 そういう点からも、実作者である河野多恵子さんやフラナリー・オコナーの言葉がよく伝わってくるのである。

 今日はオコナーのこういう言葉が目にとまった。
 十八世紀の小説と、今日ふつうの小説との大きな相違は、作者が作品から消えていることである。たとえば、フィールディングは、自作の至るところにいて、この点あの点と読者の注意を方向づけ、この個所あの個所に特別に注意せよと命令し、読者が要点をとりそこねることのないよう出来事の一々の意味を明らかにしている。ヴィクトリア朝の小説家も同じことをした。いつでも作中に入りこんで、人物たちの説明をし心理を解明してみせるのである。しかし、だいたいへンリ・ジェイムズのころになって、作家の語る方法が変わってきはじめた。物語が、人物たちの心と目を通して現われるように計りだしたのである。作者は無関心の顔つきで、舞台の裏に坐ることになった。ジェイムズ・ジョイスまでくると、作者はもう本のどこにも見つからない。
 読者は、愉快とはいいかねる人物たちの胸の中に自分の足で入り、まごつきながら進まねはならぬ。案内らしきもののつかぬ世界のまん中に、放りだされるわけだ。
 なるほどと思いながら、古いはずのフィールディングのやり方が逆にメタフィクションで使われたりして、シェイクスピアの魔女なら「ふるいは新しい、新しいは古い」とか言いそうな。
 むしろ、物語が、人物たちの心と目を通して現われる方法が窮屈に感じられ、かつての神の視点でどの人物をも俯瞰して書く方法とか、フィールディングみたいに作者がのこのこ出て来て、「ああん、そこはそんなふうに読むんじゃなくて、こう読まないと」とか口出ししながら書く方法とか、かえって斬新に思えてくるから不思議です。
 ひとりの登場人物=主人公または語り手たりうる周辺の人物に視点が固定されてしまうことの窮屈さ。それを考えるとジョイスの『ユリシーズ』が人物=視点を変えて何を書こうとしたのか、少しは理解できそうな気がします。


 RSSリーダーのキーワード登録にヒットした記事を順繰りに見ているうちに、たまたま納富さんの「薔薇のように」の感想を書かれているブログを発見。ご本人はもう読まれているかもしれませんが、念のためお知らせしました。
 ここです。


2 件のコメント:

  1. 読みました。
    胸がときめくほどの励ましでした。作者に直接向けられたわけではない個人の方のご感想として、ブログに書き込まれたわけですから、ひときわ有り難く思えます。
    この方の評は、すごく嬉しいものでした。印刷して、記念の宝物にします。
    監禁陵辱事件の被害者が、私の作品で、二重に陵辱されることがないように、気品を失わないで書こう、と思ったので、バラ園の場面を繰り返し出しました。
    事件の陰惨さを少しでも浄化するためには、神の領域で咲く薔薇の花と、被害者の女の苦痛の対比を、くっきりと浮き上がらせることが必要でした。象も「この世のすべての魂」も、そうでした。
    言葉とは、通じないもの。と思います。でも、分かってもらわないと死に至るほどの女の苦痛だったのです。婚約者は、女の苦痛が全部は分からないけれども、分かりたいと傾聴する、そして、分からないけれども、黙って頷く。苦しい人には、せめてそんなふうに、いつまでも聴いていてあげたい。
    euripides さん、素敵なブログの文章を教えてくださって、有難うございます。嬉しいクリスマスプレゼントになりました。

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  2. お知らせしてよかったですね。
     現在、RSSリーダーを三つも稼動させていますので、けっこう自分でも驚くような記事がみつかります。
     ますます「検索の鬼」になって頭に角が生えてしまいそうです。(^_^.)

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