ジョイスの『ユリシーズ』に影響されているかどうかは正確には把握していないが、主人公であるルアモーが、恋人一歩手前のイギリス人女性兵士ヘレネのことになると確実に自由間接話法に突入したりする。ヴァージニア・ウルフのダロウェイ夫人が庭やら街なかで自在に自由間接話法に入ったり戻ったりするほどではないが。
一から十まで書くのが小説か、いくつかを省略して分からない部分を残すのが小説か、意見は分かれるだろうが、クノーはこの作品でイギリスへ帰還するヘレネが乗った船がドイツ軍の潜水艦に沈められ、大部分は救助されたとは書いても、ヘレネが救助されたとか、死亡が確認されたとかははっきり書いていない。
また、ザジよりかわいいであろう少女アネットの姉で、娼婦でもあるマドレーヌとは……結局、手短に話すと、彼らはいっしょに寝た……と手短に書いているのだが、以下の最後の何行かに注目。
彼は、ていねいに足を拭いた。マドレーヌは、凍った雪粉のついている外套を脱がせた。軽い足音が階段にきこえ、ベルナール(ルアモー)は熱くふるえている、炎のような小さなからだが彼に押しつけられるのを感じた。
「アネット」彼は囁いた。「ぼくの生命(いのち)、ぼくの生命、ぼくの生命」
外は、今夜ほど寒いことは一度もなかった。
一から十まで書かない小説もなかなか読むのがむずかしい。
さて次は何をと思ったが、一応翻訳された小説を執筆年代順に並べてみた。
Le Chiendent (1933) 滝田文彦訳『はまむぎ』白水社, 1976年
Odile (1937) 宮川明子訳『オディール』月曜社, 2003年
Un Rude hiver (1939) 大久保輝臣訳『きびしい冬』集英社, 1968年
Pierrot mon ami (1942) 菅野昭正訳『わが友ピエロ』新潮社, 1965年
Exercices de Style (1947) 朝比奈弘治訳『文体練習』, 朝日出版社, 1996年
Saint-Glinglin (1948) 渡辺一民訳『聖グラングラン祭』中央公論社, 1970年
Le Dimanche de la vie(1952) 白井浩司訳『人生の日曜日』集英社, 1968年
Zazie dans le metro (1959) 生田耕作訳『地下鉄のザジ』中央公論社, 中公文庫, 1974年. 白水社, 1989年.
Les Fleurs bleues (1965) 滝田文彦訳『青い花』筑摩書房, 1969年
Le Vol d'Icare (1968) 滝田文彦訳『イカロスの飛行』筑摩書房, 1972年
順番からいくと『はまむぎ』……これもむずかしそう。次が『オディール』ですか。
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