2007年4月15日日曜日

馬車がカボチャになる時間を疾うに過ぎて

 もう何度も書いているネタで恐縮ですが、カフカの断片集である「観察」が大好きです。

 たとえば、『ふいに散歩を思いつくこと』の書き出し。

夕方になってやっと決心がついた様子で、家にいようと思い、部屋着に着替え、晩の食事のあとはランプをつけて机にむかい、仕事かゲームか手当たり次第に始めて、それが済めば習慣的にベッドへもぐりこむことになる、そとは天気が思わしくなく、これでは、家にいるのがあたりまえである、そんなわけで、……

 この読点のない表記は、カフカ自身がそうしたのか、あるいは訳者である本野亨一さんがされたのか不明だが、何となくJ・ジョイスの『ユリシーズ』最終章である「ぺネロペイア」を思い出してしまう。
 また『放心の展望』の書き出しはこう。
いまふいに春になってしまって、わたしたちは去就に迷うのである。今朝は、灰色のどんよりした空模様であったのが、いま窓辺に出てみると、ふいをおそわれた気持ちで、わたしは窓の把手に頬をおしあてたままでいる。
 見下ろすと、あどけない少女がひとり、もちろんいまはもう沈んでいく太陽の光を、まともに浴びて、歩きながらあたりを見廻す、すると、ひとりの男の影が見え、うしろから次第に歩度を早めてくるのだ。
 やがて男は追い越していき、子供の顔が、澄み切った感じで、あとに残ってしまう。


 書き出しではなく、これで全文である。
 ほかにも『不幸であること』とか、『拒絶』とか、『インディアンになりたいと思う』などがあり、これは、昔書いた小説である『堕天使が空から千人降って来る』の大切なイメージ生成に役立った。
 だけど、いちばん好きなのは『国道の子供たち』である。
 この断片集を読んでいると、カフカはとびっきりの散文家でありつつとびっきりの詩人でもあったという確信が生まれて来る。 

 で、大好きな『国道の子供たち』の中の、大好きな終わりの9行。
南のほうにある都会を、わたしは目指してゆくのだが、その都会のことをわたしたちの村では、こんな風に話している、
「あすこには、いいかい、ねむらない人間たちがいる!」
「なぜ、ねむらないのだ?」
「疲労しないからだ」
「なぜ、疲労しないのだ?」
「ばかだからだ」
「ばかはなぜ疲労しないのだ?」
「ばかが、疲労してたまるものか!」

 繰り返して書きますが、カフカは、極めつけの散文家でありつつ、極めつけの詩人でもあります。

 ちなみに表題は、午前零時を過ぎたら明日の仕事に差しつかえるので即刻に眠らないといけない我が家の、シンデレラ姫の物語にあやかった合言葉であります。
 皆様も、馬車がカボチャになる時刻には眠りましょう、ね。
 夜更かしは心身の健康を損ねます。
 って、実は自戒の言葉なのでした。

 やけくそになって、1982年のティナ・ターナーの「プラウド・メアリ」をyouTubeで聴いた。ティナ・ターナー、すでにおばはんではあるがカッコいい。誇り高きメアリって誰?

7 件のコメント:

  1. こんにちは。カフカのこの作品集、私も大好きで、実は最近、私も『放心の展望』書いたんですけど・・・(邦題は誤訳だろう、なんて生意気な意見も沿えて)
    ところで、euripidesさんの、
    ��昔書いた小説である『堕天使が空から千人降って来る』<
    読ませていただけたらなあ、なんて、図々しいお願いでしょうか?

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  2. alz様、関心を持っていただいてありがとうございます。
     でも、困りました。自分で読んでもつまらないものを読んでいただくのは気がひけます。
     でも閉鎖しない限りいずれバレるでしょうから白状いたします。このブログの右サイドバーのいちばん下の方に、個人webとか書いてリンクしてありますので、そこからお入りになれば読めます。
     でも、もう一度、つまらない小説であることはお断りしておきます。
     ネット引退=憧れのアナログ生活を考えていますので、いずれ、遠くない将来、個人webも閉鎖する予定です。

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  3. euripides 様
    どうもありがとうございます。確認させていただきました。
    他にもたくさん作品があるんですね。
    ゆっくり読ませてください。
    なお、>遠くない将来、個人webも閉鎖する予定です。
    これは、私が一応全部読み終ってから、ということにしていただければ・・・(笑)

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  4. 一時間近く、euripidesさんの部屋を探索させていただきました。
    こんなに「プラトンの洞窟」は広くて迷路があっていろんな物が埋まっているなんて初めて知りました。ちゃっかり「個人web」から入り込んで早速「鏡文字」を読ませていただきました。実に面白かったです。
    ��全体にぼやけた印象だ。こういう顔のひとは、集合写真の中で必ずひとりだけピントが合っていない>という主人公の人となりが頭にしっかりとインプットされたまま読み進めて行きました。しかし最後の「鏡文字」で「そうなんだ」と我に帰りました。面白かったです。
    「楓」という作品は読めないんですね〜

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  5. プラウド・メアリーはミシシッピー川を走るあの外輪船の名まえですね。ではその外輪船の名まえの由来は? というとわかりませんが・・・。
    「プラウド・メアリー」の原曲はCCR(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)ですが、CCRの出世作は「スージーQ」。スージー・クアトロの名まえを持つこの曲は、だけど、CCRもカヴァーだったのですよねぇ・・・。
    さぁて、euipidesさんの御作を見つけてしまったわけで(以前ちょっと迷い込んだことがあったのですが、入り方を見失っておりましたし、あまり触れないほうがいいのかな、と遠慮もしておりました)、どこから手をつけようか、とワクワクしております。ちょっと見たところ、多彩な技巧を凝らしておられる。

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  6. 書き忘れましたが、ってほどでもないのですけど、「誇り高きメアリー」と聞いて最初に思い浮かべたのは、エリザベス一世のライバル、メアリー・スチュアートでした・・・。最後はエリザベス女王に泣きついたらしいですけど・・・。

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  7. プラウド・メアリは確かにCCRのメンバー、ジョン・フォガティが作詞・作曲ですね。
     メアリ・スチュアート、あ、そうかも知れませんね。
     私の個人Webについては、以前は表の文学サイトからリンクを貼ってあり、そこからブログへもリンクしていましたが、ある深刻なトラブル以後、表からのリンクははずし、検索で入る方は別にして、裏のこのブログからしか入ることが出来ません。裏口からは入れて、表の玄関からは入れないというヘンテコリンな不可逆リンクです。
     ややこしくて申し訳ありません。
     それから古い作品は雑誌からスキャニングした当時のOCRソフトが読み取りミスが多く、また、それを相当見逃したままアップしてしまったものがあります。

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