ようやく、わが家の自家用水田の田植えが終わった。
いつものようにTさんに乗用の4条植えで植えてもらい、私は畦にいて時折、苗の補給をするだけ。Tさんの認知症の奥さんも畦にいて、時々、冗語のような会話を交わす。
「euripidesさんは何の歌が好き?」
「石原裕次郎の『赤いハンカチ』です」
「車を退かせなんて言うひと、うちの近所にはいない。euripidesさんもそんなひとのうちに行っちゃダメだよ」
「はい、そんなひとの家には絶対に行きません」
この会話が二時間半ほどで十数回反復されている。石原裕次郎というのはTさんの家で聞かされるCDに収録されているからであり、他の歌手の名を出して混乱させてはいけないと思って同じ答えをしているが、たまに他の演歌歌手の名を出しても結果は同じで、車を退かせなんて言うひとのうちに行っちゃダメだという話になる。
今日は珍しく「かわいい目をしている」などと言われてしまった。
「そんなこと、誰にも言われたことがありませんよ」
「euripidesさんは何の歌が好き?」
「八代亜紀の『舟歌』。つまみはあぶったイカがいい♫」
「車を退かせなんて言うひと、うちの近所にはいない。euripidesさんもそんなひとのうちに行っちゃダメだよ」
「はい、そんなうちには行きません」
向こうではTさんが丁寧に乗用田植え機を操作している。
こういう日常を生きていると、何だか、生きているだけで十分で、小説など書けなくてもいいような気がして来るので困るのです。
小説など、一杯の紅茶に如かないという考え、大当たり?
いや、やはり書かなきゃダメでしょう。
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