2011年10月24日月曜日

電子カウンタ

 川沿いの道から山手の町へと、私は歩いていた。
 かつてはこの町一番の繁華街だったこの通りも、いつの間にか店をたたんだ商店が続くシャッター通りになり、そして今ではその後継者も管理者も居なくなった古い商店が一軒、また一軒と取り壊されて更地となり、とうとう更地通りになってしまった。
 直線にして数百mの商店街の道路上にまったく人影が見えない。
 朝の9時頃は介護サービス施設のデイ・サービス送迎車ばかりが行き交っているが、その一時間後は人影もなく、犬や猫の姿さえ見えないゴースト・タウンというか、人間はだれも住んでいない町になってしまったのだ。。
 いつからこの町はこんなゴーストタウンに成り下がってしまったのだろう。

 奇妙な物体が、私の目に入った。
 「電子カウンタ」という文字が印刷されたプラスティック製の筐体である。その中央の窓にデジタル表示されている数字は3321。ちなみにその「電子カウンタ」が設置されているのは、更地通りのほぼ真ん中に位置する、かつては大きな書店だった家のアルミ製の引き戸の横だった。その「電子カウンタ」はおそらくそのアルミ製の引き戸が開けられる度にカウントされているのだろうが、いったい何のために設置されているのだろう?
 そのアルミ製の引き戸が勢いよく引かれて、ひとりの老婆が姿を現した。
「聞いて下さい。わたしは監禁幽閉されているんです。狂ってもいないのに狂っていると言われて、十四の歳からずうっと。ちょっと変わったことを言っただけなのに、父も母も私が狂っていると思って学校にも行かせてくれないんですよ、ひどいと思いません? こんな親を親に持った私はこの世でいちばん不幸な人間と思って、助けて下さいよ。あれ? あなたは小学校でわたしの隣の席だったヨッチャンじゃない?  わたし、ヨッチャンが好きだったのに、あなたしらばっくれていたわね。いいえ、そのことを恨んじゃいないわ。ねえ、憶えている? 校庭の隅のプラタナスの樹。あのまあるい実を取ってって言ったらヨッチャン、あなた、あのプラタナスの樹によじ登って採ってくれたじゃない。わたしはあなたと結婚したかったのに、両親が封建的なものだからあんな男と一緒にさせられて、つまらない人生を送ってしまったわ。ねえヨッチャン、わたしともう一度やり直さない?」
 その背後から五十歳前後の女性が顔を出して、言った。
「済みません、母はアルツハイマーなものですから言うことがおかしいんです」
 そして老婆はアルミ製の引き戸の向こうへ引き込まれ、その引き戸も閉められてしまった。
 「電子カウンタ」の数字がひとつ繰り上がって、3322になっていた。

4 件のコメント:

  1. ご無沙汰しております。
    先日 アンデルセンの童話賞の優秀賞をいただきまして、絵本ができました。少し時間がかかってしまいますが、そちらをお送りさせていただきます。思えば昔euripidesさまに「面白いね」と言われた一言でここまでなんだか続けてきたような気もしますので、ご笑覧ください。
    用件のみのぶっきらぼうな書き込みで申し訳ありませんm(__)m

    返信削除
  2. sunameriさん、こちらこそご無沙汰しています。
    アンデルセンの童話賞の優秀賞のことは、どこかで見た(聞いた)ような記憶がありますが、いよいよ、本になりましたか、おめでとうございます。楽しみにお待ちしています。住所はお判りでしょうか。

    返信削除
  3. ありがとうございます!!
    だいぶ以前、お蕎麦をお送りいただいた伝票の住所でよろしいでしょうか。

    返信削除
  4. はい、あの住所です。今年もソバが豊作です。

    返信削除