角川文庫 本野亨一訳 160円
昭和46年 13版だからずいぶん古びている。
「二つの会話」、「観察」、「判決」、「村の医者」、「ある流刑地の話」、「断食芸人」、「ある犬の探求」が収録されているが、折に触れ、繰り返し読み続けて来たのが「観察」に収められた18篇の断片。短編にも掌編にも成り得ていない断片だが、妙に身にしみる。散文詩に近いのかもしれない。
そのうちのもっとも短いもの。
放心の展望たったこれだけの文章ですが、なぜか、どこか、じんわりしてしまうのです。
いまふいに春になってしまって、私たちは去就に迷うのである。今朝は、灰色のどんよりした空模様であったのが、いま窓辺に出てみると、ふいをおそわれた気持ちで、わたしは窓の把手に頬をおしあてたままでいる。
見おろすと、あどけない少女がひとり、もちろんいまはもう沈んでゆく太陽の光をまともに浴びて、、歩きながらあたりを見廻す、すると、ひとりの男の影が見え、うしろから次第に歩みを早めてくるのだ。
やがて男は追い越していき、子供の顔が、澄み切った感じで、後に残ってしまう。
こういうのを「描写」と言うんですね。

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