2011年5月22日日曜日

再三再四、ビューヒナー

 以前もこのブログで書いたが(しつこい)、久しぶりに、丁寧に半透明のセロファンで包まれた「ゲオルク・ビューヒネル作品全集 ダントンの死 外四篇」(青木重孝訳・白水社・昭和16年9月25日発行)を開く。裏表紙内側に「書籍賣買 泰西堂書店 早大グラウンド上」という右書きのラベルが貼られていて、私の蔵書の中では新関良三さんの「希臘悲劇全集」より古い稀覯本だ。無論、表記は旧仮名遣いなのだが、これが実にいい。
 この作品集のなかの「ヴォイツエック」という劇の中でただの脇役に過ぎない老婆が語る「ひっくりかえった瓶」のエピソードが忘れられない。
 このエピソードの中の「可哀想なこども」は私だ。

 この旧訳をもう一度ここにコピーペーストします。

マリー お婆さん、何かお話をして!

子供たち おばあさん、おばあさん、お話をしてよ! しつ! お婆さんお話をするのよ。しつ。お話をしてよ、おばあさ



老婆 昔々......
��子供たち老婆の周りに立つたり、しゃがんだりする。マリーも交る)
昔々、可哀さうな子供がゐた、
お父さんもお母さんもゐなかつた、
みんな死んだのだよ。
そして世の中には誰もゐなくなつた。
みんな死んだ。
そこでその子は探しに出かけた。
晝も夜も。
ところがこの世にはもう誰もゐなかつたので、
天に昇ろうとした、
するとお月様がその子を優しくごらんになつた、
ところがその子がやっとお月様の所へ行つてみたら、
それは一本の腐つた木だつたとさ。
そこで今度はお日様のところへ出かけた、
そして着いてみるとそれは萎んだ向日葵の花だった、
今度はお星様の所へ行った、
ところがそれは串刺しにされた小さな金色の蚊だつたとさ、
ちやうど鵙(もず)がリンボクの棘へ蚊を刺しておくやうにだよ、
そこでもう一度この世へ歸らうとしたら、
この地球はひつくりかえつた瓶(かめ)だつたとさ――
そしてほんたうに獨りぼつちになつて、
坐つたまま泣いてゐた、
今でもそこに坐つてゐるんだよ、
ほんたうに獨りぼつちでなあ

��青木重孝訳『ゲオルク・ビューヒネル作品全集 ダントンの死 外四篇』白水社・昭和16年、より)。


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