2012年1月4日水曜日

桜が満開の川沿いの道を

 桜が満開の川沿いの道を歩いていたら、向こうから古めかしい日傘をさした女性がやって来た。ずいぶん細身で長身でたおやかな感じで、すれちがいざまに顔を隠していた日傘を後ろに下げ、声を発した。
「ちょっとお訊きしたいんですが」
 見れば黒のタイト・スカートに白いブラウス姿で、年の頃は二十代後半、まだ三十代には届いていないと思えたが、その美しい肢体を裏切るかのように顔は小さいが目、鼻、口のバランスを欠いており、しかも眦が極端に下がっていて何か困ったような、いつでもごめんなさいと謝っているような表情をしていた。
「何でしょう」
「このあたりに昔、火葬場がありませんでしたか?」
「ありましたね。壁がレンガ積みの小さな小屋みたいな粗末な火葬場でしたが」
「それはどこでしょう?」
「もう少し川下の、この桜並木が切れたあたりの右手に小さな児童公園があります。そこが跡地です」
「そうですか、通り過ぎて来てしまったんですね」
「ええ」
「あまりに桜がきれいだったものですから」
「私もその方向へ行きますので、お教えしますよ」
「ありがとうございます」
「私もね、あの火葬場には思い出があるんです。中学三年生だったかな、美術の時間に外に出ての写生があったんですね。中学校は川の向こう側にあって、美術の先生は川よりもこちら側に行ってはいけないと言っていたんですが、私は来ちゃったんです。そして、あの火葬場を描いて学校に戻って、先生にこっぴどく叱られました。川の向こうに行った証拠が写生に描かれていたんですからね。でも、その当時、私はその建物が火葬場であることを認識していなかったのかもしれません。ただ、レンガ造りの建物が珍しかったんですね」
「失礼ですが、お見受けしたところ、わたしの母と同じくらいの世代ですね」
「わたしにも、あなたと同じくらいの息子がおります」

��以下、続く)


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