忘れ物を取りに行って、たまたま暗くなる寸前のソバ畑に行った。
花は満開で小さな白い花がびっしり咲いており、その畑全体のソバの花の満開が少しの風でゆらゆら揺れている。さらにもう一陣の風が吹いた。
なぜか、首筋がぞっとした。少し先に、棒切れを振り回して、道路際のソバの花や茎を切り落としている女性の姿が見えたのだった。肩よりまだ先に伸びた髪を振り乱して、私が丹精して育てているソバの茎や花を切りおとしている。
私は背後からそっと近寄り、女性が棒を振り回している右手が静止した瞬間を狙って、両手で女性の手首をつかまえた。
「何をしているんですか」
言いながら、私は彼女の顔を見た。女性も私の顔を見た。そして、「あ、ごめんなさい」と言った。
女性は知らない人ではなかった。同じ町内に住んでいて、確か私の妻と同じ高校を卒業しているはずだった。
「なぜ、こんなことをするんですか?」
「済みません、赦して下さい」
「私のそば畑だと知っていて私のそばを棒で叩いて傷めていたんですね」
「そうじゃないんです」
「私がK子の夫だと知っていて故意にですよね」
��つづく)
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